第1回・設監建築作品賞受賞作品2006
◎高知県知事賞×2点・賞状、記念品、副賞(5万円) ◎山本長水賞×1点・賞状、記念品、副賞(5万円) ◎作品選奨×5点

※選考委員
・前田 博((社)高知県建築設計監理協会会長)
・山本長水(山本長水建築設計事務所)
・前田直孝(県土木部建築課長)
・西尾健一(県文化環境部循環型社会推進課長)
・中谷正人((有)中谷ネットワークス)

【高知県知事賞】
●薊野スタジオ(高知のライトハウススタジオ)
 設計者/(有)橋本設計室  橋本 健
●高知市立・龍馬の生まれたまち記念館
 設計者/龍馬の生まれたまちを考える建築士グループ設計委託業務共同企業体
 太田憲男、西森啓史、岡 民生、岡林広一、佐藤八尋、田村智志、佐々木文子、杉本 実、岡部早苗 他
【山本長水賞】
●桑名邸(断崖の家)
 設計者/(有)艸建築工房  平山昌信
【入賞】
●田野病院総合リハビリテーションセンター
 設計者/徳弘・松澤建築事務所  徳弘忠純
●農家ゆずら
 設計者/ムーデザイン事務所  西内 正
●みづき坂のアトリエ
 設計者/(株)細木建築研究所  細木 茂
●俺の事務所
 設計者/(有)ニュートラル建築研究所  松木貴史
●佐竹邸
 設計者/徳弘・松澤建築事務所  松澤敏明




高知県知事賞 ◎用途/写真スタジオ、事務所 ◎構造/鉄骨造 ◎延床面積/399.63m2

薊野スタジオ(高知のライトハウススタジオ)
[高知市薊野中町]



■設計者/橋本 健
(有)橋本設計室
     
■施工者/大旺建設(株)
■建築主/(株)一秀
●講評
 前面の公道から奥に入った長い敷地で、南側は切り立った6mの擁壁という、特殊で一見不利な敷地条件を有効に活用し、建物用途を巧みな空間構成で成立させ、周辺の自然環境を最大限に利用し、省エネルギーに対しても配慮している技量に対して、審査員一同が知事賞として評価した。
 1階アプローチをピロティとして、その奥に車などを入れ込めるスタジオ|、外部スタジオ、2階にはオフィス・ラウンジ・2層吹抜けの高さを持つスタジオ||の主要な機能を設けながら、全体としてはオフィス・スタジオなどの基幹的な諸室を敷地北側に配置して擁壁から離している。この建物配置および各室のレイアウトが、この建築の評価を決定付けたといっても過言ではない。2階のオフィスから見た擁壁は、距離ができたことと、GLから見れば高さも半分ほどになって、視覚的な圧迫感が和らげられているが、採光はこの南側に期待するのではなく、安定した北側採光をメインとしている。擁壁とその上のよく繁った森は、夏期の熱負荷削減に役立ち、冷房負荷も少なくて済んだとのこと。スタジオについてもは、屋内の2つに加え、スタジオ|と擁壁との間に屋外スタジオを設け、この上部吹抜けを介してスタジオIとスタジオIIとが立体的に結びつき、変化のあるアングルでの撮影が可能となっている。さらにオフィスの屋上も南側の森林を借景とするスタジオとして機能するように設えられている。このように、薊野のスタジオには、シンプルな中に多様な映像シーンを切り取ることのできる優れた造形力と空間の構成力が感じられる。
 しかし、使用素材が20世紀的な工業生産材に留まっていること、擁壁面の緑化を進めることなど、時とともに味わい深い空間に育ってゆくことを期待する声、そして、時代の求めるものに優れたデザイン力を発揮して欲しいという希望が審査員の中にあったことを付け加えておく。




高知県知事賞 ◎用途/展示場、集会場 ◎構造/木造 一部 鉄骨造 ◎延床面積/794.3m2

高知市立・龍馬の生まれたまち記念館
[高知市上町]


■設計者/龍馬のまちを考える建築士グループ
設計委託業務共同企業体
太田憲男、西森啓史、岡 民生、
岡林広一、佐藤八尋、
田村智志、佐々木文子、杉本 実、
岡部早苗 他

■施工者/大旺建設(株)
■建築主/高知市
●講評
 高知県の伝統的木造建築の手法、素材を用いたいわゆる土佐派の建物で、歴史上の偉人を思い出させる、そして土佐の伝統、文化、風土が背景に感じられる建物であることが、知事賞に値するとの評価を受けた。
 建物を受付・管理部門、展示部門、コミュニティ部門の3つのブロックに分け、それらを回廊でつなぐ平面計画は、利用者の動線ともうまくマッチしている。正面のファサードは、切妻型のふたつの大きな棟を鉄骨造の薄くシャープな下屋でつなぎ、1階の案内所や店舗、2階に上がる吹抜けの階段をガラス張りとし、セットバックしたアプローチからは見やすく入りやすいように計画されている。外壁は白漆喰と松煙漆喰とを使い分けて、表情にコントラストと変化をつけている。下見板代わりに銅板を用い、その押し縁を外壁面全体のデザインに取り入れて、ガラスの割り付けや漆喰面の割れ止めとしている技術的な展開にも、デザインと機能との融合が見られた。また、準防火地域での法規制の制約の中で、あえて木造在来軸組工法を採用しながらも、シンプルで構造的にもまとまっているなど、これらが知事賞という評価につながった。
 しかし、なんといっても個性の強い建築士が多数力を合わせて、グループとして十分に機能が発揮され、質の高いデザインを獲得してることを評価したい。チームでする仕事の難しさや市民との対話をねばり強く重ねた成果をここに見せていただいた。
 一方、水平耐力の補強に鉄骨造を混ぜている点、2階天井仕上げの和紙と垂木との関係などに疑問があったことも付け加えておくが、地域独自の素材による表現に新たな一ページを開いたことは確かである。




山本長水賞 ◎用途/住宅 ◎構造/RC造+木造 ◎延床面積/109.42m2

桑名邸(断崖の家)
[高知市小石木町]




■設計者/平山 昌信
(有)艸建築工房
     

■施工者/入交建設(株)
■建築主/桑名真紀
●講評
 急峻な崖地に立つダイナミックなスケールを持つ住宅である。クライアントの考え方を十分に理解し、厳しい斜面の敷地条件を克服し、自然環境を壊すことなく今後の斜面住宅に対するモデルともなる提案を行っている点が評価された。
 前面道路から下部はRC造、上部は片流れの屋根を持つ木造で全体が構成されている。ワンフロア・ワンルーム形式で、1階の部屋からは木造デッキが外に向かって連続的に広がり、はるか遠方の市街地や山並みを望む。外観の特徴としてダイナミックに突き出したデッキの脇には、屋根に降った雨を集めて再利用するために、オブジェのような集水器具が置かれているのも愛嬌。
 地下階の浴室にも木造デッキがあり、上部デッキと同じ景観を共有しながら夕涼みできる、心地よいスペースが提供できている。ここでは、訪れる人誰もが風呂上りのビールをイメージしたというほど、強い空間と生活のイメージが構築されている。
 特異な敷地環境と非凡な建築主に対応して、みごとに感動的な空間を造形し得ている。設計者の実力が水を得た魚のように生き生きと見えるという評価とともに、審査員からは、経年劣化に伴う敷地の状態や建物(特にキャンチレバーのデッキテラス)の維持管理に留意してもらいたいという要望と、構造的にも厳しい条件であるが、眺望を重視するあまり前面開口部の水平力を鉄筋ブレースに頼っている手法などに対してさらなる検討を重ねて欲しいとの要望もあった。




入賞 ◎用途/病院 ◎構造/鉄骨造 ◎延床面積/1,342m2

田野病院総合リハビリテーションセンター
[高知県安芸郡田野町]




■設計者/徳弘忠純
     徳弘・松澤建築事務所
     
■施工者/(株)岸ノ上工務店
■建築主/医療法人臼井会
     田野病院
●講評
 現在、地域医療でもっとも求められている施設であり、また時代の要請である環境に配慮した施設として、十分に考慮の行き届いた作品である。リハビリテーション部分はワンルームの中にそれぞれの機能を配置し、必要に応じて最小限のパーティションで全体を構成している点に特徴がある。地域の患者さんたちのリハビリをする機能だけでなく、コミュニケーションの場としても快適な空間になっていると同時に、スタッフの目配り、気配りを容易にし、管理しやすく配慮されているといえる。屋上に施された緑化は、環境緑化にとどまらず、屋根の断熱材として機能するとともに、隣接する病院の既存棟の病室からは目の前に見えて、入院患者さんの癒しの空間ともなっている。既存病院との関係で、床の高さをそろえてバリアフリーとしたため、前面道路との段差が大きくなったが、玄関扉までと、エントランスホールに入ってからの2段構えのスロープの設置で、この大きな段差に対処している。エントランスホールは広く、天井高も高くとられていて快適である。技術的な面では、1階床下をすべてピットとしてメンテナンスや設備機器等の更新に対して配慮されている。さまざまな配慮が各所に行き届いており、それが全体的にバランスよく、手堅く素直にまとめられているところが評価の対象となった。また、このような設備ではなく植物を利用した断熱や遮光などにより、建物の温熱性能を向上させ、エネルギー負荷を上げずに環境改善を図る技術の導入は、二酸化炭素排出量の削減が国際的な課題となる中で、今後ますます重要性が増してくるものと考えられる。一方、デザイン的には無難な表現にとどまっており、これからは独自性や地域性などに対する配慮が望まれる。




入賞 ◎用途/専用住宅 ◎構造/木造 ◎延床面積/104.46m2

農家 ゆずら
[高知県香南市香我美町]




■設計者/西内 正
     ムー・デザイン事務所
   
■施工者/(有)大谷建築
■建築主/西内 正

●講評
 静かな山里にたつ築50年の古い農家の建替と築80年の納屋の再生であり、「ゆずら」とはこの家の屋号である。
母屋は既存の農家の柱や丸梁を小屋組に再利用し、懐かしい家族の思い出を引き出してくれる。アプローチや平面計画はいたっておおらかで、玄関土間を入るとそこは茶の間であり、居間であり台所である。家のすべてが見通すことができる。また、障子を開けると見える坪庭などの植栽や石の配置などにも気が配られている。築80年の納屋の再生は楽しげである。建替えの家から続くが、納屋らしく梁下が低く、また狭く、そこを上手に夫婦の生活空間に仕上げている。棟束に残る番つけや板図が地域の職人の文化を物語っていた。いずれにしても、自然素材を使い既存材料も有効活用して、地球環境保全に配慮した建物となっている点、農家として受け継がれたものを大切にし、優れた感性で仕事を楽しんでいる点が評価された。しかし、母屋に関してはすんなりとできてしまったような印象もある。ストレスがたまるのではない、心地よい緊張感のようなものが欲しかった。また、母屋の端部に用いられたコンクリートブロックの壁の構造耐力や雨戸の強度、北側斜面の安全対策などに対しても配慮が望まれる。




入賞 ◎用途/設計事務所社屋 ◎構造/1F:鉄骨造、2F:木造 ◎延床面積/137.39m2

みづき坂のアトリエ
[高知市みずき1丁目]




■設計者/細木 茂
     (株)細木建築研究所

■施工者/直営
■建築主/(株)細木建築研究所


●講評
 閑静な住宅地に建つ設計事務所。2階の木造ガラス張りの箱を、1階で16本の鉄骨の丸柱で支える軽快な形態である。近代的手法に伝統的素材を用い、屋根はフラットで深い軒を持ち、ガラス面の保護と共に軽快さを際立たせている。1階から2階へあがる。ガラス越しに周辺の緑が心地よい。内部の家具はできるだけ低く押さえられて、目通りをよくしている。執務空間は木造在来軸組工法を採用し、自然素材で仕上げ、広い開口部を設けて執務を行う者はもちろん、来客者にも心地よく過ごせる空間を創り出している。素朴なスギの梁が近代建築の表現の中に十分に生かされており、シンプルな空間構成と事務所の機能が両立した円熟の造形となっているが、2階の外壁がほとんどガラス張りのため、熱の収支に対する疑問の声もあった。



入賞 ◎用途/事務所兼住宅 ◎構造/木造 ◎延床面積/85.63m2

俺の事務所
[高知市南久保]




■設計者/松木 貴史
(有)ニュートラル建築研究所
     
■施工者/(株)龍建設
■建築主
(有)ニュートラル建築研究所


●講評
 この事務所は、コンパクトでシンプルな愛らしいプロポーションの良さと、限られたスペースを効率よく利用して、洗練された建築に仕上げている点が評価された。2階建てであるが、南側の前庭に向けて屋根を片流れとしたことによって、建物外観のボリュームが抑えられて威圧感がなくなっている。同時に前庭は裏通りのポケットパークのような外部空間となり、猫の日向ぼっこに最適な空間を創りだしている。もちろん、ここを心地よいと感じるのは猫だけではないはず。
 また、小規模建物であるが、モジュールや材料選定等でローコストを追求した努力が見られたり、床下の通風を工夫して省エネルギーの配慮がなされている。書類審査においては、2階の住居部分の居住性に疑問がもたれたが、限られた面積の中ではよく考えられていることが、現地審査によってわかった。使用素材については、現代的な素材が多く使われており、ローコストを求められたときの選択肢として、さらなる検討が望まれる。



入賞 ◎用途/専用住宅 ◎構造/木造 ◎延床面積/198.53m2

佐竹邸
[高岡郡中土佐町久礼]




■設計者/松澤 敏明
     徳弘・松澤建築事務所
     
■施工者/梅原工務店
■建築主/佐竹 敏雄
●講評
 久礼の町並みに建つ旧家の再生である。昭和8年に建てられた入母屋造りの堂々とした商家の佇まいの外観を残し、内部も既存の使える部材は多く残した1階の改修は大変な作業だったと聞く。施主や建築家の考え方、それを可能にする職人の伝統に裏づけされた技術やねばりある姿勢がなせる技で、西側の増築部分を加え、落ち着いた町並みを形成している点が評価された。周囲の景観にも調和が取れて町並みの保存に貢献している。現在の生活様式で十分に使用できるように改修されている。伝統工法で建てられた家を再生することにより現在の時代的要請である循環型社会を構築している。技術の伝承が可能な仕事を作ることにより木造建築の技術の継承に功績があるなど、さまざまな評価がある一方で、改修部分が応接的な機能のため、保存修復的なニュアンスが感じられ、空間的にもの足りなさを感じさせるという指摘もあったが、設計者の地道な努力と洗練された感性、実力がなければこのような結果は得られなかったはずとは審査員の一致した意見である。再生利用は、資源の有効利用の3R(廃棄物の発生抑制・リデュース/Reduce、再使用・リユース/Reuse、再生利用・リサイクル/Recycle)の中でも最も有利な手段であり、社会基盤の主要な分野である建築物について、このような再生利用への社会的な評価が高まり、技術や取り組みが進むことは、町並みの保全という効果も含め、循環型社会の実現に大きく寄与すると考えられる。循環型社会を目指している現在、このような施主、設計者、職人の存在は、今後ますます大切にしていかなければならないことであろう。